現在、大企業で大規模な早期退職募集という名のリストラを敢行する企業がどんどん増えています。
下記記事にまとめた通り、募集対象となるのは45歳以上の社員が多く、それなりに大きな企業であれば退職金に割増額を上乗せでもらうことができ、意外と多くの社員が早期退職に応募しているのがわかります。
でもこの「45歳以上」というアラフィフのゾーン。早期退職するには非常に微妙な年齢なんですよね。
人生100年時代と言われ、年金支給開始年齢も70歳まで引き上げられそうな現代、50歳前後でリタイアするのは早すぎるのは間違いないです。
もし仮に100歳まで生きることになったら、50歳なんてまだ前半が終わっただけの時間帯ですからね。相応な資産を持っていないと残りの人生を逃げ切るのは無理でしょう。
かといって、アラフィフになった今から転職するのもしんどい……。シニアの転職率は上がっているとはいえ、年収減になるだろうし、また新しい仕事を覚えるのも、イチから人間関係を構築するのもしんどい。
そこで、少なくない数の人が考えるのが、
退職金を元手にして起業コース。
それも、大企業出身者の人ほど早期退職後の起業を考えます。
しかし、もう先にはっきり言ってしまいましょう。
早期退職後の起業は99%失敗します。
その理由を下記で書いていきます。
個人起業の10年後の廃業率は約9割という事実
そもそも早期退職者云々は関係なく、個人起業の廃業率を知っているでしょうか?
「起業しても9割は消える」なんてよく言われますが、あながち間違いでもないです。中小企業白書によると、個人事業者の廃業率は以下の通り。
- 1年後:27%
- 3年後:62%
- 10年後:88%
つまり、そもそも起業は10年生き残れる可能性が約10%しかない険しい道なのです。
私が実際に個人起業した身なので、周囲の人間関係も自営業や法人経営者が多いのですが、肌感でも5年後には7割くらいの人が消えていく印象です。
現在はネットが発達したので10年前に比べたらかなり個人起業しやすい時代になりましたが(私もその恩恵を受けました)、生き残れるかどうかは全く別の話。むしろ誰でも起業しやすくなった分、ライバル業者の数も激増しているので結局のところ生存競争率は変わらないわけです。
これがまだ20代や30代であれば、失敗しても十分にやり直せます。しかし、50歳前後になって失敗して退職金もパァにしてしまったら、老後が悲惨になる可能性も濃厚になってきます。それなら、退職金をそのままインデックス投資に入れて資産運用していた方が100倍マシです。
大企業出身の元エリートリーマンほど起業には向いていない
大企業でサラリーマンしていた人は、規模の大きい仕事をしてきた経験から「自分はデキるビジネスマンだ」という自負を多かれ少なかれ持っています。
でも、サラリーマンの仕事と「商売」ってまったく違います。年収数千万稼ぐようなエリートリーマンでも、それは「サラリーマン」という仕事のプロであって、自分で商売した経験がゼロであれば商売に関してはド素人と同じです。
なので、高学歴で大企業出身のエリートが次々と独立起業に失敗する一方で、高卒だけど商売センス抜群の起業家が大成功したりする世界なわけです。ZOZO前澤さん(バンドマン→起業)やDMM亀山さん(アクセサリー露天商→DMM創業)はその筆頭でしょう。
「会社の看板」と「会社の金」を使って新規事業を起こすことと、ゼロから自分の身と金だけで起業するのはまったく別次元の話なので勘違いすると死にます。
はっきり言ってしまうと、大企業のサラリーマンは起業家・経営者という「仕事」には基本向いていません。求められる能力が全然違うからです。
ここを勘違いして「俺なら起業しても成功するだろ」と思い込んだ人が次々と屍になっていきます。
では、なぜ大企業のエリート会社員が起業に向かないのか?
大企業出身者ほど「外では通用しないスキル」ばかりが身についているからです。
大企業は数千人・数万人の社員という歯車で動いている組織なので、必然的に社員1人の仕事は大組織ほど細分化されていきます。要するに1つの歯車の担う仕事はより小さく限定的になるということです。
その証拠に、大企業ではいくら優秀な社員であっても、”その人が辞めたら明日から会社が維持できなくなる”、なんてことには絶対になりません。それほど大企業というのは、構成員の個々の能力に左右されないよう、「誰がやっても売上があがる」という仕組みを、長い年月をかけて構築してきているのです。
さらに大企業には社歴を重ねるにつれ、その会社独自の「文化・慣習」が根付いており、その会社の外では通用しない仕事のやり方が社員にも染み付きます。
何度か転職経験がある人ならまだ良いですが、大企業ほど転職経験者が少ない傾向があります。転職経験がなくずっと一社に勤めてきた人は、いわば「海外へ一度も出たことがない日本人」と同じです。ホームでうまくやってこれたとしても、一歩外の世界に出れば何もできなくなってしまうのがオチです。
例えば年収1000万越えの会社員でも企業のバランスシート一枚読めない人がほとんどですし、営業利益と経常利益の違いすら分かっていない人が腐るほどいるのが現実なのです。
経営ではそうした資金繰りが大事な仕事の一つですが、会社員はこうした仕事に関してはほぼ素人同然です。なのになぜか大企業出身の会社員ほど、謎にビジネスに対して万能感を持っている人が多いのです
このあたりはこちらの記事「独立起業してはいけない、自営業・経営者に向いてない人の特徴」で詳しく書きましたので、心当たりがあれば参考に読んでみて下さい。
失敗例の多い個人起業の代表「飲食店の開業」
会社員が独立起業して最も失敗する典型的なコースが「飲食店の開業」です。みんな本当に飲食店をやりたがる。なぜかというと、特別なスキルや能力のない人は飲食店くらいしか起業できる選択肢がないからですね。
飲食店の開業であれば、場所と人(スタッフ)を抑えれば何かしらスタートできます。場所代や内装など開店資金を退職金で賄って、あとは夫婦で回すこじんまりとしたお店にすれば、とりあえずスタート自体はできますからね。
でも、飲食店ビジネスって数ある商売の中でもかなり難しいんですよ。
ホリエモンが唱えた「儲かる商売の4原則」という有名なルールがあります。
- 利益率が高いこと
- 在庫を(できるだけ)持たないこと
- 毎月の定額収入が入ること
- 少ない資本で始められること
個人で起業をするなら、この4原則を抑えた商売にすべきとホリエモンは言っています。
でも、飲食店ビジネスって4原則とは真逆と言ってもいいくらい条件悪いんですよね。
飲食店の場合
- 利益率が低い(10〜20%程度)
- 大量の在庫を抱える(食材など)
- 定額収入はない(売上の波が大きい)
- 始めるのに大金がかかる(内装や人件費など開店資金)
こんな難易度の高いビジネスに、商売経験もない資本力もない元サラリーマンが挑んでも勝ち目はありません。
誰でも始められるけど、商売としてやっていくのは超難しい。それが飲食店ビジネスです。
早期退職後の独立・起業を成功させる条件
早期退職に限った話ではないですが、アラフォー以上で自分で商売した経験がない(副業などの経験もない)万年サラリーマンが、そこから独立起業して上手くいくケースというのは、私の観測した限りでは2つの条件を満たしていることが多いです。
- 自分のスキル・キャリアの延長線上にあるビジネスを選ぶ
- 在職中に、(独立後に)仕事をもらえる得意先を囲っておく
それぞれ説明します。
1. 自分のスキル・キャリアの延長線上にあるビジネスを選ぶ
まず、独立起業するなら何かしらのエキスパートである必要があります。自分が会社の中で培ってきたスキルやキャリアが活かせるビジネスを選ぶことが絶対条件です。
まったく知識や経験もないのに、いきなり飲食店を始めても上手くいくわけがありません。逆に言うと、ずっと飲食で店長をやってきた人や、外食産業でキャリアを積んできた人であれば、むしろ飲食店で起業するのが一番成功率が上がるでしょう。
(専門的なスキルや経験なんて何もないよ……)という人は、そもそも起業に向いていません。おとなしく会社員をしているのが一番です。起業コースは諦めて、年収大幅減になっても再就職コースを選んだ方がいいでしょう。
2. 仕事をもらえる得意先を在職中に確保しておく
独立・起業した当初は、とにかく仕事を取ってくることに苦労します。いくら大企業出身でも、会社の看板を失ったら実績もないペーペーですから仕方ありません。
なので、独立起業で良いスタートが切れる人というのは、大体は起業前から下準備(という名の根回し)をしています。つまり、在職中から得意先に対して「今度、起業するんで仕事下さいね」というコネを作っておくのです。
こうしたコネを準備しておくと、独立起業してもスムーズに仕事が回り出します。あとは、囲っているお得意先で安定した仕事を確保しつつ、取引先を拡大していけばいいだけ。営業力は必要になりますが、最低限の食い扶持が確保できている状況であれば大分イージーゲームになります。
【結論】マイペースに働ける職場に再就職してセミリタイアするのが一番なのでは?
完全リタイアして残りの人生をやりくりできるほどの資産はない。かといって、もう第一線でバリバリ働くほどの気力も体力もない……。
というなら、早期退職して退職金をまとめてもらいつつ、年収減でもマイペースに働けるホワイトな職場に再就職してセミリタイアみたいな生活を送るのが一番良いのでは? と私は思います。
早期退職した人に話を聞くと、「社会との接点を持っておきたい」という理由から何かしら働いている人が多いんですよね。やっぱり突然一切働かなくなるとすぐ暇になりますし、どんどん堕落していきますからね。
幸いにも、労働人口の高齢化によって40代以上のシニア転職市場は年々拡大しています。下記は転職支援サービス「
doda(デューダ)
https://doda.jp/guide/ranking/068.html
35歳以上は黄色の線です。ご覧の通り2010年以降で唯一2倍以上に伸びています。30〜34歳の割合に僅差に迫る勢いですね。
とくに、管理職・マネジメント経験のある人材であれば転職・再就職はかなり有利です。
というのも、現在ちょうど就職氷河期世代が管理職のメインゾーンに差し掛かる年代にきているのですが、いかんせん氷河期世代は採用数がめちゃ少ないので、社会全体で管理職ポジションが人材不足になっているからです。
なので、早期退職からの再就職を目指す人には追い風が吹いているわけですね。
「この歳で転職なんて無理だ……」と諦めず、まずは転職エージェントに相談しにいって話を聞いてみるといいでしょう。どの程度の求人案件を出してもらえるか試してみて、それから考えるのでも遅くありません。
また退職金の額や資産にもよりますが、ある程度蓄えがある人なら、無理に正社員にこだわる必要もないですしね。貯金資産を崩さずに生活費を賄える程度にゆったりマイペースに働いて、趣味などに時間を費やすセミリタイア生活も良いものです。
利用すべき転職サイト/エージェント