松浦勝人(まつうら まさと)/1964年10月1日生まれ
photo by : http://matome.naver.jp/
TRF、小室哲哉、安室奈美恵、ELT、浜崎あゆみーー。
邦楽黄金期と呼ばれた1990年代の音楽ブームを牽引したレコード会社・エイベックス。
一般的なレコード会社と違い、アーティストに対して非常に親身になって育て上げる体制のエイベックスは、有力なアーティストたちと強い信頼関係を結ぶ事でレコード会社として不動の地位を築き上げてきました。
音楽ブームが下火になりつつある現在は、エイベックス・グループ・ホールディングスとして事業内容は音楽産業のみに留まらず、ネット動画配信局「BeeTV」の開局してドラマやバラエティコンテンツを提供したりと、総合エンターテイメント会社としての地位を確立しています。 (事実、現在の音楽事業は全体構成比でいうと3割にも満たないので、もはや「音楽会社」とは言えない・・・?)
そんなエイベックスグループの創業者であり、代表取締役CEOである松浦勝人さんは、この一大企業グループを、学生時代にアルバイトしていたという、数名の店員しかいなかった小さな貸レコード店から創業させました。
今回は、アルバイト時代からその際立った商才を発揮していたという松浦さんのヒストリー・レコード会社エイベックスが誕生するまでの道をまとめてみました。
類いまれな商才を発揮した、貸レコード店のバイト時代
中学から高校にかけて、まだ日本では浸透していなかったダンスミュージックに目覚めたという松浦さん。
高校を卒業して日本大学に入ったあとも、ありとあらゆるダンスミュージックを聞き漁っていた松浦さんは、もっともっと好きなだけ音楽が聞けるという理由から、貸レコード店であった「友&愛」港南台店でアルバイトを始めました。
店の向かいのライバルレコード店に圧倒的に客を奪われていた港南台店は、当たり前のように経営状況は最悪で、従業員もパートのおばさんを入れて4人ほどしかいないという弱小店だったそうです。
(ちなみに、この時に一緒にバイトしていたメンバーが、エイベックスホールディングス代表取締役CBOの林真司氏と、元取締役の小林敏雄氏でした。さらに、当時高校生だったEXILEのHIROさんは店の常連客であり、松浦さんの高校の後輩でもあったそうです。)
「このまま店が潰れてしまったら、大好きなダンスミュージックが聞けなくなる」と危惧していた松浦さんは、店のオーナーから「好きに店を作っていいよ」と言い渡されます。
こうして、言うなれば店の経営権を託されたバイトの松浦さんは、向かいの競合店に勝つべく、店を探りにいって客層を調べたり、店の前に一日中立って客数を数えたり、入荷されて来た新譜がどれほどの速度で売れていくかを観察したりと、マーケティング調査をしていきました。
さらに松浦さんは、自身の膨大な音楽知識を活かして、店の輸入レコードに独自のライナーノーツ(日本語解説書)をつけるという手法を編み出し、実践していくとこれが大きな手応えを得ました。
他にもレコードをランキングにして陳列したり、土日や祝日に様々なキャンペーンを打つなど積極的な改革を試みていくうち、いつしか「友&愛」港南台店は競合を追い抜き、町一番のシェアを誇る人気店へと変貌していきました。
見事な経営手腕で店を復興させた松浦さんは、当時大学3年のバイトでありながら、店の売上の7%を給料としてもらい、店長という肩書きと名刺まで渡されていたほど、その商才をオーナーに認められていたそうです。
オーナーから会社設立に誘われ、起業の道へ
当時、大学3年生だった松浦さんは、春先から就職活動をする予定でしたが、その経営手腕を認めていた店のオーナーから、「新しいレコード店を設立して一緒に経営しないか?」と誘いを受けました。
当たり前に就職活動をしてサラリーマンになると思っていた松浦さんは、最初はこの誘いに戸惑いますが、愛着を持っていたレコード店をやっていきたいと言う想いもあったそうです。
そうして進路に迷っていた松浦さんは、実家が中古車販売の自営業をしていたこともあり、「最悪ダメになっても家業を継げばいい」という気持ちから起業の道を選びます。
バイト先のオーナーと共同で株式会社ミニマックスという会社を設立し、「友&愛」上大岡店をオープンさせました。 (ちなみに、この時の上大岡店にいたアルバイトが、のちにEvery Little Thingとしてデビューする五十嵐充氏でした)
横浜市のなかでも、横浜駅に次ぐほど乗降客数の多い上大岡を戦場に決め、15坪にも満たない小さな店を持って激戦区に参戦した松浦さんでしたが、そこでも辣腕を振るい、上大岡店は「友&愛」の売上トップ店舗に躍進しました。
その後、全体的なレンタル店舗の増加に伴い、そこで何か商売ができないかと考えた松浦さんは、輸入レコードを買い付けてレンタル店舗に卸すという、輸入レコードの卸売業を始めることにします。
こうして、貸レコード店経営のサイドビジネスとして始めた輸入版の卸業でしたが、それが好調だったこともあり、松浦さんは再び、今度は卸業社として別会社の共同設立に誘われます。
その卸業社の名は「エイベックス・ディー・ディー株式会社」。
のちに音楽ブームを牽引する「エイベックス」の誕生でした。まだ大学を卒業後、松浦さん23歳だったときの話です。
卸売業者から、レコード会社への転換
こうして、輸入盤の卸売りとしてスタートしたエイベックス。その取引店舗はすぐに全国へと広がり、売上も爆発的に上がっていきました。
学生時代からダンスミュージックにハマり、当時では日本一ダンスミュージックに詳しいと自負するほどの知識量を持っていた松浦さんの率いるエイベックスは、「ダンスミュージックに強い会社」として業界内でも浸透し、認知されていきました。
すると今度は、そんなエイベックスの評判を知ったイタリアの音楽レーベルから、商品ではなく、日本国内でオリジナルのCDをリリースする権利を買わないかという話が舞い込んで来ました。
この話が、エイベックスの岐路を分ける大きな転換期でした。
つまり、CDやレコードの輸入をして堅実に商売を続けていくか、権利を買ってレコード会社としてメーカーになっていくか。
当時まだ26歳という若者だった松浦さんは、そのチャレンジ精神から、周囲の大反対を押し切ってメーカーになるという道を選択したのでした。
そして、1990年。 レコードレーベルとなる「avex trax」が誕生したのでした。
まとめ
と、エイベックスの誕生秘話をまとめてみました。 その後、90年代の音楽ブームを牽引していったエイベックスの躍進は、誰もが知る所だと思います。
しかし、エイベックス設立当初、松浦さん自身は、エイベックスがこれほど巨大な会社になるなどとは想像もしていなかったそうです。
「将来のビジョンなんてものは、ない」 松浦さんは経営論を尋ねれるたび、このように答えています。
その時、その瞬間に、楽しそうな事、面白そうな事に全力で挑んできた。目の前の、ちょっと手を伸ばせば届きそうな目標に向かって無我夢中で頑張ってきた。 その積み重ねの結果、いつしか思いもよらなかった成功がついてきた。そう言います。
多くの人が起業という道を考えるとき、将来の明確なビジョンや道筋を、あらかじめ綿密に計画立てて用意しておかないと、走り出せないと身構えています。
その結果、スタートもしていない段階からアレコレと考えてしまい、結局何もできないまま終わってしまう・・・。 逆に、どれだけスタート時に綿密に将来の事業プランを組み立てたところで、実際には思い描いた通りに事が進んでいくはそうそうないでしょう。
ならば、どうせ分からない未来なのならば、深くは考えずに。
いま面白いと思う事、いま目の前にあるものに、とにかく全力で手を伸ばしてみる。
そんな松浦さんのやり方を、一つの成功例として参考にしてみてはいかがでしょうか。
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