井戸実(いど みのる)/1978年1月19日
photo by : http://matome.naver.jp
外食産業において、郊外ロードサイドの居抜き物件を再生して出店する経営手法から、『ロードサイドのハイエナ』という異名を持つ飲食店経営のカリスマ・井戸実さん。
28歳の若さで株式会社エムグラントフードサービスを創業し、「ステーキハンバーグ&サラダバー けん」「ステーキ&ハンバーグ いわたき」などの店を全国展開する一大外食企業へと成長させました。
2012年のピーク時には売上高225億、年収は「一般サラリーマンの生涯賃金ほど」だと言い、毎月の”飲み代”が400〜500万かかっていたという豪快な億万長者の井戸さんですが、
若き成功者としても注目を集めつつ、ブログやTwitterでの「ニートは道を歩くな」や「たった1000円ちょっとの食事で30分もクレーム電話をし続ける奴の気が知れない」などの歯に衣着せぬ発言が度々炎上するなど、良くも悪くも話題に事欠かない人気者です。
そんな、外食産業の風雲児の経歴をまとめてみます。
高校を卒業後、寿司職人の道へ
小学校・中学校と、将来の夢は「寿司職人」か「プロ野球選手」だった井戸さん。
中学では野球部に入り、ピッチャーとして本格的にプロを目指す意気込みだったそうですが、試合に負けるごとに段々と自分の才能の限界に気づいたようで、夢のベクトルは寿司職人へシフトしていきました。
少年時代からせっかちだった井戸さんは、中学を卒業したらそのまま修行の道に入ろうと考えていましたが、両親の説得によって高校には進学することに。
まったく勉強してこなかったので、入れたのは地元川崎で最低偏差値の工業高校でした。
高校時代には飲食店や寿司屋でアルバイトをして仕事を経験し、”30歳までに自分の店を持つ”という具体的な目標まで定めました。
卒業後の就職先として、できるだけ早くカウンターに立てる店を探していた井戸さんに、当時のアルバイト店の店長が紹介してくれたのが、「築地すし好」という江戸前寿司を提供する会社。
高校を卒業後、この「築地すし好」にて寿司職人としてのキャリアをスタートさせます。
職人の仕事だけでは”経営”を学べないと気づく
築地すし好に入社した井戸さんは、必死に修行して2年でカウンターで寿司を握るまでに成長していました。
配属された銀座の店舗は非常に賑わっていたようで、当時20坪の店面積で月3000万を売り上げるほどだったそうです。
しかし、そんな繁盛店で職人としての腕を磨いた井戸さんは、「このままじゃ自分の店は持てない」という結論に至りました。
その理由は、雇われている職人は、仕入れ値や原価など、商売の基本に関わる部分を教えてもらえないためです。
なので、井戸さんは自分で取引相場を覚えるために一人で築地市場に通い、原価や仕入れの仕組みを理解していきました。
また、尊敬する30歳過ぎの先輩職人の給料が額面で30万そこそこだということも知ってしまい、店を出すなんて到底敵わない現実を知ってしまいます。
しかし諦めることはありません。30歳で自分の店を持つという夢を実現させるべく、井戸さんは店を辞め、戦略を変えます。
飲食店経営を学ぶための転職
経営のセオリーを学ぶべく転職したのは、「牛角」を展開するレインズインターナショナルです。
当時の牛角は年間300店舗を新規出店するなどイケイケの時期だったので、店舗開発の中途採用を未経験可で募集していました。
そして、井戸さんはこれに即時応募して滑り込みました。
当時担当していたのは、ビルオーナーへの誘致営業で、毎日飛び込み営業をしては牛角をアツくプレゼンしていたそうです。
なんでも、焼肉店は匂いや煙のせいでオーナーからは敬遠されやすいのだとか。
ここで約2年間、営業を続けながら不動産のノウハウなどを修得していき、営業成績ではトップを収めるほどの働きを見せました。
店舗開発を学んだところで、次は業態開発のノウハウ修得に乗り出した井戸さん。
レインズを辞め、今度は“マネーの虎”のひとりでもある小林敦社長が経営する小林事務所へ転職しました。
ここでは1年間かばん持ちをしながら、新店のコンセプトづくり、メニュー開発、仕入れノウハウなど、業態開発のいろはを学びました。
すると今度は、飲食店を開業したい人と物件オーナーを結び付ける事業を行っていた店舗流通ネット(株)へ再び転職。
ここで、目黒区にあるレインズの店舗が売りに出されているという情報をキャッチしました。
1千万以上を借金し、サラリーマンをしながら店舗オーナーへ
売りに出されていたレインズの店舗は、買い取り費用が1200万。当時の井戸さんの貯金はわずか150万でした。
しかしこのチャンスを逃すまいと、井戸さんは親族に頭を下げて借金し、店舗を買い取って念願のお店を手に入れました。
買い取った店舗を、「感菜(かんさい)」という創作居酒屋にリニューアルしてお店はスタート。店舗オーナーになった井戸さんは目標より4年も早く夢を叶えたわけですが、店舗流通ネットでサラリーマンをしながらの”副業状態”でした。
当時まだ26歳だったこともあり、なかなか思い通り店を経営できるわけもなく、売上はなかなか上がらない上に、本業の給料は借金返済で全て消えていく……。当時は奥さんの給料でなんとか食べさせてもらっていた状態でした。
そして店舗流通ネットに入社して1年後、上司が立ち上げた「ワイズフードシステム」に取締役として参加します。
この時、郊外のロードサイドで運営されていた「ステーキ&ハンバーグ いわたき」6店舗の経営権をスタッフ付きで買わないかという案件がワイズに舞い込みます。
この案件を画策するうち、ワイズと取引のあった肉の卸問屋の出資を受けて新会社となる『株式会社まいど』を設立、井戸さんは雇われ社長になりました。
井戸流の経営手法で急成長を遂げる
6店舗の経営権を買い取って株式会社まいどの雇われ社長となった井戸さん。
経営のノウハウを学んできたため、今度は売上も順調に伸び、同じ年の5月には五反田に「博多水炊き ふくのかみ」を、7月には南柏に「ステーキハンバーグ&サラダバー けん」をオープンさせます。
その後、8店舗まで増えたところで、井戸さんが全ての経営権を買い取るかたちで、株式会社エムグラントフードサービスを設立。本格的に起業家として創業社長になりました。
ここから業績は急成長していくわけですが、成功の要因となった井戸さんの経営手法をいくつかあげてみましょう。
「ロードサイドのハイエナ」
「ステーキハンバーグ&サラダバー けん」は、郊外ロードサイドの居抜き物件(前の飲食店舗が撤退した物件)をそのままを使うことで設備などのコストを極限まで抑えるという手法で、店舗数を急拡大していきます。
撤退する飲食店というのは、物件を「もとのまっさらな状態にして」返さないといけないので、撤退費用がかかるのが普通でした。
しかし、そこを井戸さんがそのまま引き継ぐことで、撤退する店舗は撤退費用を、井戸さんら新規店舗は設備費用などを大幅にコストカットでき、まさに双方に利が生まれるシステムなのです。
「都内ではなく郊外」「新規ではなく居抜きで出店」という経営手法を築いた井戸さんは、業界では「ロードサイドのハイエナ(またはエンジェル)」などと呼ばれています。
あえて「ステーキ」では勝負しない
「ステーキハンバーグ&サラダバー けん」のウリはステーキではなく、1000円程度のメインメニューを注文するとサラダやカレーが食べ放題になるという値頃感です。
カレーは「美味くもないが、まずくもない」という無難な味になっており、万人に受けるよう飽きさせない味を追求しています。
サラダバーも当然ウリの1つで、野菜は高騰していても値上げはしないそう。
ステーキ屋はステーキ、ハンバーグ屋はハンバーグなど、メインメニューで勝負するのではなく、サイドメニューを抱き合わせて販売することに商売のコツがあるとのこと。
業務委託で各店長を経営者に
エムグラントサービスの運営する店舗では、業務委託を進めて直営店を減らしていく方針を取っています。
FC(フランチャイズ)は契約締結企業の投資で店を造ってもらい、エムグラントサービスはノウハウの提供料をもらうシステムです。
これは、サラリーマン店長を減らしていく目的があるよう。
なんでも、サラリーマン店長では電気や空調のスイッチをまめに切って節約しようとはしないけど、オーナー店長になって自分の収入に跳ね返ってくるとなると、途端にこまめなコスト削減をし始めるそうで、結果的に店長はみんな経営者にしたほうがコスト管理の面が徹底するのだそうです。
競争激化で現在はやや低調ぎみか……?
独自の手法で店舗数と業績を急拡大させてきた井戸さんですが、やはり市場原理上、競合が出てくるのは仕方のないこと。
すかいらーく「ステーキガスト」やロイヤルホスト「カウボーイ家族」など大手が手法を真似しはじめたことにより、競争が激化しているようです。
井戸さんのエムグラントサービスは総資産額は非公開のようですが、ロイヤルホストやすかいらーくに比べると「ケタが違う(低い)」と述べており、価格競争が体力勝負になればじり貧になるのは必至です。
原価率で見ると、「けん」が40%、「ステーキガスト」が35%、「カウボーイ家族」が38%といわれているため、長い目でみれば「けん」はどんどん厳しい状況に追い込まれていきかねません。
そのせいか、2013年のピーク時に230店舗あった店舗数も、1年後の2014年には140店舗に減ってしまいました。
井戸さんは熾烈なステーキ戦争からは撤退して、パスタへ乗り出すという話も……?
井戸さんの経営術はこちらで詳しく知ることができます。
ブログやTwitterの炎上はもはや日常茶飯事
さて、井戸さんと言えば、ブログやTwitterなどでたびたび過激な発言を繰り返し、炎上するのが名物となっています。 いくつか有名な発言をピクアップしてみると↓↓
「今日から日テレで労基を題材したドラマ『ダンダリン』が始まるけど、 頑張っている人、会社に必要とされている人は労基って必要性が無いんだよね。厳しい言い方で言うと、必要とされない人が会社と揉めて駆け込むのが労基。ドラマの題材にするには少しナンセンスかな。」
「なんで低所得者に現金を配らなくてはならないのだろう? なんで住宅購入者に給付金を与えなくてはならないんだろう?買わなきゃ良いのに。家なんて。 そんな使われ方の為に消費税が上がる事を賛成してる人達の意味が理解出来ないのだけど。」
「月曜日の朝からいい大人がママチャリを立ちこぎで激走してるのを見ると、あんな人生はキツイなぁ。と心から思う。」
「簡単に起業って言うけど、出来る人はそもそもそんなしょーもない文句言わないから。つまり自分の勤めてる会社がブラックだ!とか言ってる時点で次は無いのよ。」
「だいたい不満があるのに転職しないで文句言って働き続ける人が1番ブラックだよ。」
「職業選択が自由なのに、不満があるのにその会社に寄生する人が声を大きくブラックだ!と言うのっておかしいでしょ。そう言う人に限って、仕事がそんなに無い!って言うけど、仕事はいくらでもあるから。結局選んでるだけじゃんか。」
「自分が勤めてる会社の経営者とか上司をアホ呼ばわりして、 でもその会社に寄生してしがない給料取りをしてる人生ってキツくないすか?」
などなど、こちらはWikipediaより引用していますが、こちらのNAVERまとめにも沢山載っています。
度重なる炎上について、井戸さん本人はこう言っています。
ブログを書くときは何も考えていない。思いついたことを言っているだけ。いちいち周囲の反発を気にしていたら何もできない。ブログが炎上することで売り上げが落ちるのではと言われるが、びくともしない。マーケットの対象じゃない人たちにいくら言われようが関係ない。
実は、たまに2ちゃんねるなどでわざと炎上させて、自身のメルマガに誘致しているそうです。
そのメルマガでは毎月80万ほどの収入を得ているそうで、それに関する発言がこちら↓↓
経営者は失業保険にも入れないし、会社の負債について個人保証もしている。潰れたら自己破産で悲惨だ。最悪、メルマガで食べていけるようにしておけば、パソコン1つでやっていける。会社が倒産しても、何が何でも家族を食べさせていくための保険だ。
メルマガで月80万の収入があれば、十分に一般サラリーマン以上の生活をしていけますね。
まとめ
何かと労働環境が取り沙汰される飲食業界ですが、井戸さん自身は「外食産業で日本一給与水準の高い会社」にしたいと常々語っています。
末端の社員の懐事情までは分かりませんが、業務委託を進めているということで各店のオーナーは年収1500〜2000万以上の給料をもらっているそうですね。
外食産業も、井戸さんの背中を見て若手実業家が今後も台頭してくれば、業界内支配層の世代交代が促進されて、現状のブラック体質が改善される日がくるかもしれません。
【おまけ診断テスト】自分の「才能」に気づいていますか?
仕事ができるビジネスマンと出来ないビジネスマンの差は、意外と「自分の才能・資質を知っているかどうか」だけの差だったりします。
仕事ができる人ほど「自分が得意なこと」を仕事にし、仕事ができない人ほど「自分が好きなこと」を仕事にしようとします。
仕事が非常にできる2割の人間は、自分が得意なことを仕事にしている人。
仕事を普通にこなす6割の人間は、自分が得意なことを仕事にしていない人。
仕事ができない2割の人間は、自分が苦手なことを仕事にしている人。
「好きなこと」と「得意なこと」は違います。残酷なほど違います。一流と三流を分ける海より深い隔たりがあります。
世界最高のサッカー選手であるリオネル・メッシは、FW(フォワード)というゴール前20m四方のエリア内でのみ世界最高の選手でいられます。彼は誰よりもディフェンスをしません。なぜか? その仕事場以外では平凡な選手だからです。
つまり「仕事ができる人間」とは、「得意な場所で、得意な仕事をしている人」なのです。
あなたは、自分の才能がどこに向いているのか把握していますか? 本当はドリブルやシュートが得意なのに、なぜかディフェンスポジションで仕事をしているせいで「仕事ができない人間」になっていませんか?
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