おそらく起業に興味を持ってこのサイトを訪れている人は、IT・インターネットの分野での起業を考えている人が圧倒的に多いと思う。
IT起業は、資本もさほど必要とせず、1人あるいは少人数でスタートできるうえに、成功すれば大きなドリームも望めるので、起業においては圧倒的に挑戦者の多い分野だろう(屍の数も圧倒的だが)。
そして、そんな挑戦者たちの前に立ちはだかる絶対的な壁が、「プログラミング」の存在であることも予想がつく。
しかし、IT起業家にプログラミングスキルは必ずしも必要なのだろうか?
現在のIT企業の社長たちは皆プログラミングが出来るのかというと、全くそんなことはない。
起業家・社長の仕事って何だろうか?
いきなり個人的な話だが、私の知人で、素人から独学で1年半ほどプログラミングを勉強してWebサービスを立ち上げた人間がいる。
とは言っても最初のカタチだけを自分で何とか作って、その先はプログラマーを雇ったわけだが、組織を作った現在となっては自らがコードを書くことがなくなり、膨大な時間をかけて覚えたコードの書き方はもうほとんど忘れてしまったらしい。
彼がプログラミングを学んだことが全くの無駄だったかどうかは他者には判断できないが、少なくとも彼が彼のビジネスをする上で、”プログラミング(もっと言えばコーディング)は彼がしなければならない仕事ではなかった”ということは言えそうだ。
スティーブジョブズは最後までプログラミングをせず、天才エンジニアである相棒に任せ続けたし、
ソフトバンク起業前の孫正義氏は、まず優秀なエンジニアを集めるという行動を取った。
営業代理店としてサイバーエージェントを起業した藤田晋氏は、技術がない(プログラミングが出来ない)から堀江貴文氏のオンザエッジと手を組んだ。
彼らは皆、自分がプログラミングを覚えるという選択をしなかった。なぜか?
その仕事は、”自分よりデキる人間がいる = 自分がしないといけない仕事ではない”と判断したからだろう。
彼らにとっての目的はITビジネスを起こすことであって、プログラミングはそのためのツール・手段に過ぎない。もしツールを自分が持っていないのであれば、年月をかけて自作するよりも、優秀なツールを調達してくる方が遥かに効率がよく、早いのだ。
これはあくまで一部の例にすぎないが、いずれの起業家も大きく、そして圧倒的なスピードで成功しているので良い参考にはなるだろう。
技術を知らなくていい、というわけでは決してない
このようなことを書くと、「じゃあIT企業の社長は、IT技術やテクノロジーの知識がなくてもいいって言うのか?」と反論したくなるだろう。
しかし、決してそういうことではない。
むしろ、IT企業の社長たるもの、他の誰よりもテクノロジーを”知って”いなければならない。
現在シンガポールを中心に世界8カ国に拠点を構え、人工知能を用いたアプリマネタイズサービスや電子決済サービスを世界に展開している株式会社メタップスという日本のベンチャー企業がある。
その社長である佐藤航陽氏は、「IT企業のリーダーに必要なスキルは”未来を見通す力”である」という趣旨の著書『未来に先回りする思考法』でこんなことを書いている。
テクノロジーを「知る」という行為には、以下の4つの段階があります。
- 使える
- ポテンシャルがわかる
- なぜできたのかを原理から理解している
- 実際の作り方がわかる
コンピュータを使える人①は世界で27億人以上います。そして、コンピュータで何ができるのかというポテンシャルも、9割以上の人が理解しているはずです②。しかし、電子回路なども含めてコンピュータがどのように動いているのかを理解している人④は0.1%程度しかいないでしょう。
未来の方向性を読むためには、④まで知る必要はありません。
一方で、①と②は多くの人が理解していて、差がつきません。
重要なのは、③の「原理」を知っているかどうかです。
そのテクノロジーがなぜ誕生し、どんな課題を解決してきたのかを知ることで、その課題を解決する別の選択肢が誕生したときに、未来の方向性をいち早く察知することができます。
(本書212Pより抜粋)
孫正義氏は(おそらく)プログラミングは出来ないが、テクノロジーについては誰よりも勉強して”知って”いる。本人も、一流の研究者や技術者と対等に議論を交わせるレベルまで勉強しなければならない、と起業家の心得を語っている。
それは佐藤氏が言うところの、③テクノロジーの原理を理解する、という所までを極めているのだろう。そして、この段階までを徹底すれば、未来へ先回りすることができる(優れた先見性を発揮できる)ということだ。
すなわち、進むべき未来を見定めることが最たる仕事である社長や起業家は、③までは確実にカバーする必要がある。
しかし④(プログラミング)に関しては、その道の専門家(エンジニア)に任せても良い=リーダーがしなければ成り立たない仕事ではない、と言うことだと個人的に解釈している。
※ちなみに、メタップス佐藤氏は早稲田大学を20歳で中退して起業している。起業した当初はPCメールすらろくに出来ないほどのITリテラシーだったそうだが、現在は人工知能を用いる世界的ベンチャーの社長になっている(しかも1986年生……!)
プログラミングはできた方が良いに決まっている
「必ずしも必要なわけではない」とはいったが、IT事業を営む全ての人にとってプログラミングはできるに越したことはない。これはまず100%間違いない。
シリコンバレーの偉大なIT起業家たちは、多くがプログラマー出身だ。彼らは上で言うところの④まで高い次元でマスターしているから、必然的に③の領域もカバーしている。
Google、Amazon、Facebookなどの巨大企業の創業者たちが考える未来像は驚くほど酷似しています。彼らは「いつ」それに取りかかるのかのタイミングの読み合いをしているだけです。
「未来に先回りする思考法」248Pより抜粋
(彼らには「同じ未来」が見えているが、その未来が「いつ来るか」が分からない)
プログラミングは学ぶに越したことはない。そんなことは当たり前。
問題なのは、その技術を修得するための時間的コストだ。どんなに飲み込みの早い人でも、仕事として使えるレベルに達するには本気で取り組んでも年単位の時間がかかるだろう。ましてや「極める」レベルを望むものなら途方もない年月を要し、それこそ他の全てを捨てて取りくむ必要がある。
マークザッカーバーグも、ショーンパーカーも、イーロンマスクも、ラリーペイジも、そのコストを支払ったのは少年時代であり学生時代だ。3年や5年という多大な時間を捧げても何の問題もないタダ同然の時期である。そして彼らには”才能”があった。
もし現在、将来はITで起業したいと考えており、プログラミングを学ぶのに十分な時間がある学生あるいは若いビジネスマンであれば、今のうちにプログラミングを学んでおいた方が確実に良いだろう。
今の時代、オンライン英会話のようにプログラミングもオンラインでプロに教わることができる。
中でも短期集中型プログラミング学習の代表的存在である「TechAcademy [テックアカデミー]」は、”最短4週間で未経験からプロを育てるオンライン完結のスクール”と謳っている。
さすがにプログラミング未経験者が4週間でプロになるのは難しいと思うが、それくらいプログラミングは誰にも身近な「習い事」になり、気軽に始められるようになった。
「若いうちに旅行に行っとけ」とはよく言うが、プログラミングも同じだと思う。若く時間があるうちに絶対に触れておいた方が良い。
ただプログラミングは独学ではモチベーションが保てない人が多いので、そう言う人は車の免許合宿のようにTechAcademy で一気に詰め込んでしまった方が良いだろう。
リソースの全てを、本当に必要な仕事のみに全力投入する
よほどの天才でもない限り、人間ひとりの出せる成果などたかが知れている。そう考えると、仕事の生産性というものはただの”偏り”にすぎない。
時間や労力といった有限である自分のリソースを、何にどの程度注いだかという「偏り」である。
当然だが、最も生産性が高くなるのは、全てのリソースを一点に集中させたときだ。
つまり、選択と集中。ある成果を最大化させたいのなら、その他全てを捨てること。これが鉄則。
方向を間違えたり、やりすぎたりしないようにするには、まず『本当は重要でもなんでもない』1000のことにノーと言う必要がある。
スティーブ・ジョブズ
考え方は至ってシンプルだ。
あなたが本当にすべき仕事は、あなたがそれをしないと事業が成り立たないという仕事だ。それ以外の仕事は捨てていい。
あなたでなくても成り立つ仕事、もしくはあなたより上手くできる人がいる仕事は、得意な人に任せればいい。
では、IT起業家・社長がしなければならない仕事、リーダーでなければできない仕事とは何だろうか?
プログラミングだろうか? それとも資金調達だろうか?
先に紹介したメタップスの佐藤航陽社長は、「テクノロジーの原理を理解し、未来を見通してビジョンを示すこと」であると言っている。
スティーブジョブズの長年の友人であったジェイ・エリオット氏は、ジョブズのことをこう評していた。
“ジョブズには1000マイル先の水平線が見えていた。
しかし、彼にはそこに到達するまでに通らなければならない道の詳細は見えていなかった。”
つまりは、そういうことだ。
ITで起業しようという人は、未来に先回りするという点について詳しく書かれたメタップス佐藤社長の著書をひとまず読んでおくことをオススメする。