ハリーポッターの翻訳家、松岡佑子<静山社前社長>の経歴書

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松岡佑子(まつおか ゆうこ)/1943年9月10日ー

全世界で4億部を売り上げる大ブームを巻き起こしたハリーポッターシリーズ。

著者のJ・K・ローリングは、史上最も稼いだ作家として歴史に名を残し、その名作は各国60人の翻訳家によって世界中に届けられています。

もちろん、ハリーポッターシリーズは日本国内でも大人気を博したわけですが、日本版の版権を勝ち取ったのは、なんと”社員1人”の弱小出版社でした。
亡くなった夫の会社を継ぎ、ハリーポッターを日本に届けた社長兼翻訳家は、松岡佑子さん。

本職は通訳であり、翻訳はこのハリーポッターが初めてでした。 世界一小さな出版社が、世界一大きなベストセラーに挑戦することになったきっかけは、ほんの小さな偶然の奇跡から。

そんな版権獲得の逸話から、度々指摘される誤訳問題まで、ハリーポッターの”第二の親”である松岡さんの経歴を辿りながらまとめてみました。

目次

大学を卒業後、通訳の世界へ

国際基督教大学を卒業している松岡さん。もともと語学が得意だったようで、大学1年のときには運輸省の通訳案内業免許に最年少で受かったぐらいの英語力がありました。

卒業後は大学院に行く予定でしたが、その時すでに出会っていた松岡幸雄氏(亡くなった夫で静山社創業者)と結婚することになり、生活費を稼がなければならないと就職の道へ進むことに。

学生部に就職相談に行くと、たまたま海外技術者研修協会という財団法人が常勤通訳の募集をしていて、語学力には自信があったことから応募してみると見事に合格。

「通訳を目指していたわけではなく、就職したのがたまたま通訳の仕事だった」と言うように、松岡さんは通訳としてキャリアをスタートさせることになりました。

卒業後には、松岡幸雄氏と結婚もしました。

 

キャリア半ば、夫の死で出版社を引き継ぐことに

通訳者としてのキャリアは順調にステップアップしていきました。

大学卒業後に就職した海外技術者研修協会では常勤通訳者として7年間の実務経験を積み、その後はフリーの通訳者となって国際会議の同時通訳などの仕事もこなすようになりました。

元来の性格が”ハーマイオニー”だと語る松岡さんは、向上心が人一倍強く、人生で勉強から離れることは片時もありません。

50歳を目前にした1992年には、仕事仲間を通じてモントレー大学院大学の客員教授として招かれ、客員教授のみならず日本語通訳翻訳科の学科長までこなしていたそうですが、 なんと教えるだけでは飽き足らずに、生徒として大学院に入学してしまいました。

大学生の頃にしていた勉強はその後の社会であまり役に立たなかったようで、大人になった今再び学問を続けてみよう思い立ち、国際政治学の修士号の単位を取得しました。

この期間は、学科長と教授と生徒を掛け持ちしていて、あまりの忙しさに肺炎になったそうです……(笑)。

松岡さんがモントレーで生活していた一方で、日本でお留守番をしていた夫の幸雄さんは、1979年に立ち上げた『静山社』という出版社の代表としてほそぼそと仕事をしていました。

この静山社は当初、民衆史や闘病記を中心とした社会派の出版社であり、1986年の筋萎縮性側索硬化症 (ALS) 患者手記の出版を機に、ALSに関する書籍を多く刊行していました。

とはいえ、マンションの一室を借りた小さな出版社で、とてもじゃないけど売れていたとは言えない状況でした。

そして、松岡さんがモントレーから帰国後、1997年の12月25日に幸雄さんは肺ガンで亡くなります。

息を引き取る前、幸雄さんは松岡さんに対して「通訳というしっかりとした仕事があるんだから、儲からない静山社なんていう会社はつぶしていい」と言い遺していました。

しかし、幸雄さんが一生懸命に本を作る姿を見ていた松岡さんは、自身も本が好きということもあり、たった一人で静山社を継ぐことを決意しました。

食いつなぐために通訳の仕事をフリーでこなしながら、幸雄さんの遺した企画書を参考にしたり、業界の人に話を聞き周りながら、手探りで出版業という仕事を勉強していきました。会議通訳の経験で貯めた知識から「国際会議用語辞典」を出版したりしたそうです。

そして社長就任の翌年、1999年についに、ハリーポッターと運命的な出会いを果たすことになります。

ハリーポッターとの出会い

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「さて、次はどんな本を出そうか?」と企画をぼんやり考えながら、通訳の仕事でたまたまヨーロッパへ行ったときのことです。

長年の友人夫婦がロンドンに住んでいるということで、仕事のついでに久しぶりに会いにいった松岡さん。

そこで夫妻に「何か面白い本はない?」と何気なく尋ねてみたところ、「今イギリスで一番売れている」という本を本棚から出されました。 それが、『ハリー・ポッターと賢者の石』でした。

松岡さんの第一印象としては、表紙も漫画っぽくて正直あまり好みではなかったそうです。

しかし、「大人から子供まで大人気なんだ!」と夫妻が推しに推してくるので、試しにホテルへ帰って読んでみると、もうページをめくる手が止まらないほど面白い!

一気にハリーポッターの世界にハマってしまった松岡さんは、一晩で1巻を読み終え、翌日には版権代理人に連絡をして「ぜひウチで出版させてほしい!」と交渉に乗り出しました。
しかし、ハリーポッターやJKローリングがまだ日本で無名だったとはいえ、すでに松岡さんの他に3社の出版社が版権に名乗りをあげていました。

“社員ひとり”の静山社からすれば、どの会社も自分より大手です。会社の規模や信用度では到底敵わないのだから、松岡さんは原書を擦り切れるほど読み込み、ひたすら作品に対する愛と情熱を訴えかけました。

その結果、松岡さんの愛と情熱が代理人を通してJKローリングにも認められ、世界一小さい出版社である静山社が、ハリーポッターの版権を獲得することに成功しました。

 

ハリーポッターと向き合った過酷な10年間

イギリスで大人気だったハリーポッターの版権を手に入れた松岡さんでしたが、日本で売れるかは全くの未知でした。

むしろ、書店などの反応は「児童書にしては厚すぎる。こんなもの子供は読まない」と否定的なスタンスでした。

しかも、松岡さんは通訳に関しては30年のキャリアがあるものの、翻訳に関しては初めての経験。イギリスと同じように日本でもヒットさせられる保証はどこにもありませんでした。

しかし、ハリーポッターが間違いなく名作であることに自信を持っていた松岡さんは、「売れなかったら全ては翻訳家である自分の責任」として背水の陣で翻訳に取りかかります。

翻訳は初めての経験なので、良作とされる翻訳書や、当時の日本の学校指定図書、翻訳のノウハウ本などを片っ端から読んで分析し、子供に受ける文体やリズム、読みやすさを追求するために2ヶ月をかけ、翻訳仲間や編集者たち10人以上に幾度となくチェックを受けてもらいました。

そうして、1年間をかけて完成させた『ハリーポッターと賢者の石』の日本語版。 もし1巻が売れなければ、その後に続く2巻3巻を出す費用は残っていません。まさに命運を賭けた大勝負でした。

初版部数に関しては、支援してもらっていたベテラン編集者は2万7千部が妥当だと提案しましたが、松岡さんは強気に3万部を初版で出すと決意し、もし売れ残ったらマンションの自室を空にして全て引き取るとまで覚悟していました。

結果ーー『ハリーポッターと賢者の石』は、1ヶ月で23万部を売りあげるという奇跡を起こしました。

こうして、日本でも大ブームを巻き起こしたハリーポッターシリーズ。命運を賭けた初巻から、最終巻となる7巻を刊行するまでには、実に10年の歳月がかかりました。

正直なところ、10年に及ぶ翻訳作業は相当辛かったようです。

『ハリー・ポッター』は、巻を追うごとに本がだんだん厚くなっていきますから、翻訳作業がなかなか終わらないのがつらかったですね。第1巻でさえ「こんなに厚い本を、子どもは読みませんよ」と言われていたのに、2巻、3巻とどんどん厚くなるんですから。

翻訳しても、翻訳しても終わらない。それなのに、いい本を出してほしいという周囲の期待は高まっていきますし、自分自身に対する期待も大きくなる。10年間、よくそれに耐えられたなと思います。 こちらのインタビューより引用

1つの言葉、1つの文章をどんな日本語に訳すか、その作業もまた作家と同じ”産みの苦しみ”を味わうのでしょう。

10年という決して短くない歳月を、たった1つの作品に全て費やすという経験は、とても幸せなことであり、それと同じくらい苦しいものでもあったようです。

その偉大な功績によって、ハリーポッターシリーズは日本でも累計2400万部を越える大ベストセラーとなっています。

 

一部で指摘される誤訳問題は……?

数字を見れば、松岡さんが訳した日本語版ハリーポッターは大人気ベストセラーとなったわけですが、 一部では松岡さんの翻訳に対する疑問の声が少なからず上がっているようで……、「誤訳がヒドい」としてネット上には検証サイトなどが数多く立てられているほどです。

この誤訳問題について、1つ考えられる原因としては、原作者であるJKローリングの徹底した秘密主義が関係してそうです。

JKローリングは書き上げた最新の原稿を、金庫に閉まって厳重にカギをかけて保管していたそうで、その内容は翻訳家にも教えられなかったそうです。

なので、松岡さんら翻訳家からすれば、最終巻への伏線となるキーワードを書こうにも、肝心の伏線の正体が著者本人から明かされないために、謎のまま訳さなければならなかったのだとか。

キーワードしかり、登場人物の関係しかり、最終巻で明かされる部分は、翻訳家もある意味”想像”で書かなければならなかったんですね。なので、その前段階において違った解釈で訳されていても仕方のないことだったようです。

とはいえ、ネットなどで酷評されている誤訳については、そういうレベルのものではないのかもしれませんが……。

まとめ

国内の読者からは翻訳版について賛否両論があるものの、松岡さん自身はJKローリング本人から絶大な信頼を得ているようで、 世界各国に60人以上いるハリーポッター翻訳家の中で、著者であるJKローリング本人と直接会ったことがあるのは、松岡さんを含めて2人しかいないようです。(作者側とのコンタクトは全て代理人が入るようです)

J.K.ローリングもまた、生活保護をもらいながら貧困に喘いでいた辛すぎる無名時代を乗り越えてきた女性ですから、無名の出版社であった松岡さんにも同じようなバックボーンを感じたのかもしれません。

ホテルの喫茶店で初対面したときは、過去の苦しかった時代のことなどをお互いに語り合ったそうです。

ちなみに、ハリーポッターの大ヒットで躍進を遂げた静山社は、今では社員12人を雇って経営しているようで、松岡さんは社長から会長職になったようです

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